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2025.06.10
法学部主催講演会「《ガザ》とは何か」を開催しました
5月23日(金)、2号館407教室にて、法学部主催講演会「《ガザ》とは何か」を開催しました。講師には、長年にわたりパレスチナ問題に取り組まれてきた、岡 真理氏(早稲田大学文学学術院教授、京都大学名誉教授)をお招きし、歴史のなかにあるパレスチナについて紐解き、2023年10月以降のイスラエルによるガザ侵攻の深刻な人道危機について講演いただきました。当日は、学生や教職員ら約110名が聴講しました。
講演の冒頭では、現在のパレスチナ問題を理解するうえで重要な歴史的背景について説明がなされました。岡氏は、古代のガザがヘレニズム文化の拠点であり、紀元前から多民族・多宗教が共存する社会であったことを世界史の文脈から示し、当時のユダヤ人の起源について、現在多くのメディアが誤った情報を流していると指摘しました。現在のパレスチナ問題は、紀元前にまでさかのぼる必要はなく、約100年前の歴史に目を向けることでその本質が見えてくると強調しました。とりわけ、第一次世界大戦後の国際連盟における入植者植民地主義の構造が問題の根底にあることを示し、日本もかつてその構造に加担していた歴史を明らかにしました。そして、現在この国際連盟規約に明記されていたパレスチナにおける「委任統治」が本来の目的に反した形で続いている政治的な不当性を言及しました。
さらに岡氏は、第二次世界大戦中のナチスによるホロコーストを受けて制定された「ジェノサイド条約」について、国際連合がラファエル・レムキンにより定義されたジェノサイドの核心部分である「文化的破壊」が恣意的に条文から外されていることを指摘しました。その結果、現在の国際法は本来の機能を果たせず、形骸化していると言及しました。そして、現在ガザで起きている事態は人道危機を超えており、パレスチナの人々は、言語、経済、政治的に生活の基盤を奪われるだけでなく、民族的アイデンティティの根幹をなす文化そのものまでもが破壊されつつあり、「文化的ジェノサイド」が進行していると非難しました。また、この問題は決して他人ごとではなく、日本がかつて加担したアイヌや沖縄の人々が受けた植民地支配や抑圧の歴史の地続きにあると強調し、「これは私たち自身の問題として向き合うべき深刻な課題である」と指摘しました。
講演の終盤では、「私たちはいま、道徳的な岐路に立たされている。平和や命といった言葉が価値をもたない今日において、何を信じて、どのように生きていきていけばよいのか問われている」と学生に訴えかけました。
質疑応答では、学生からの「政治的思惑に左右されない、正確な情報にたどり着くにはどうすればよいか」という質問に対し、「しっかりと自ら学び、議論を重ねることが不可欠です。また、SNSでは、関心のある人にしか情報が届かないという構造的な限界があることも理解しなければならない」と回答されました。また、「どこか遠くの出来事として他者化してしまう感覚がある。どのようにすれば自分ごととして捉えられるのか」との問いには、「日本もかつては占領者でした。しかし、私たち自身がその歴史に真正面から向き合い、何をしてきたのかを知ろうとしなかった。その問いを避け、過去を忘却してきた結果として、今日のガザにおけるジェノサイドが起きてしまったと考えます。歴史は今につながっているからこそ、過去を消し去るのではなく、学び続けることが大切です。そして、日本社会そのものが『脱植民地化』することが必要です」と語られました。
今回の講演は、ガザの現状についての理解を深めるだけでなく、日本の歴史や自身の倫理観を見つめ直し、私たちが何を学び、どのように行動していくべきかを考える貴重な機会となりました。