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2025.07.07
【経済学部】東京大学中西徹先生(開発経済学、貧困研究、フィリピン研究)を招聘し講演会を開催しました
6月19日(木)、本学では東京大学名誉教授中西徹先生(フィリピン研究/社会研究/国際経済学研究/農業研究)をお招きして、4号館203号教室において講演会『グローバル資本主義に抗う―フィリピンに学ぶ「地域」の力―』を行いました。本公演会は2025年度西南学院大学教育推進プログラムの一環として実施され(主催:西南学院大学経済学部)、当日の会場には200人を超える本学教員・本学学生および一般の参加者が出席されました。会場に加えて、約50人はwebでの参加を希望されましたものの、当日、同時配信においてトラブルが起き、希望者の方がたのご希望に添えなかったことにつきまして、この場を借りてお詫び申し上げます。
中西徹先生は、1985年にはじめてフィリピン、マニラ近郊のフィールドに入られて以来、欠かさず現地の貧困調査と貧困の背景にある社会-経済的関係についての研究を続けられ、今年でフィールド調査は40年目となりました。
本講演会ではフィリピンの貧困の現場から長年見てこられた変化について、多方面から言及されました。中でも、90年代を期に転換した食と貧困の質の変化についての知見は驚くべきものでした。中西先生いわく、80年代当時は一日一食、粗末なものしか出されず、タバコで飢えをしのいでいたが、90年代を境として朝食から1日分のカロリーを超えるような食事が出てくるようになり、果てには甘いケーキまでついてくるようになったとのことです。先生が1~2ヶ月程度のフィールドワークに行ったときには15kgも痩せてしまい、別人になってしまい、ご家族が誰だかわからなくなるような過酷な貧困と飢餓を体感されてきましたが、今では、肥満と生活習慣病が蔓延してきているということ、これは統計によっても裏付けられるだけはなく、自分が調査を対象とする範囲内でも、貧困層の若年死(非感染性疾患による)が増加していることは事実であるという、きわめて衝撃的な報告をされました。
フィリピンは科学農業生産技術の導入地域として知られています。「奇跡の米」で知られる国際稲研究所(IRRI)があり、現在は遺伝子組み換え農産物であるGMやBt作物が普及しています。開発経済学のテキストでは科学的農業と経済開発の模範例として紹介されることも少なくないフィリピンの事例ですが、農薬による薬害の問題はIRRI周辺ではいまだに残っており、遺伝子組み換え作物の特許を持つ企業の独占的な知的財産権によって、必ずしも地域のひとびとの生活の質が改善されていない点など、フィリピンの農業をめぐるさまざまな国際的な問題が講演会では紹介されました。
後半では、かつては飢餓の島として知られたネグロス島が遺伝子組み換え作物を条例で廃されたことを報告され、フィリピンのスラムで幼少時から見知っている子どもたちの中からも政治家や専門医師などが育ち、リーダーが現れつつあることなど、長年現地で対面調査を行ってこられた先生が見つけだされた「フィリピンに学ぶ地域の力」について、力強い主張を展開されました。
冒頭と締めくくりにおいて、中西先生は、社会を考えるにあたって、医者が患者の顔をみなければ診断できないように、統計のみによって完結するのではなく、「人の顔を見る」ことの重要性を訴えられ、会場は大きな反響に包まれました。
本講演会に先立ちまして、中西徹先生は西南学院大学キリスト教活動支援課を訪れられた際、本学が行ってきたフィリピンにおけるボランティアワークについて、意見交換を行い、本学のポリシーに賛意を示されておられました。
本講演会は、現代社会において「「データを分析する」 だけでなく「人々の顔をみる」 ことの重要性」について、われわれの認識を新たにする貴重な機会となりました。当日、中西徹先生とアシスタントをつとめる本学外国語学部3年生西野勇吾さん